
2026.03.10

新しい場所で、自分の名前が呼ばれる。
一瞬だけ、返事が遅れる。
ここが自分の席だということも、
今日の役割も、頭ではわかっている。
それでも声は、
少しだけ探りながらになる。

新しい肩書き。
決められた席。
すでに用意された役割。
椅子に座る背中が、まだ硬い。
机に置いた手の位置が、落ち着かない。
声を出す前に、喉がわずかに止まる。

鏡の中の自分が、少しだけ他人行儀だ。
いつものように、
支度を始める。
掌に落としたオイルを、肌にのせる。
シトラスの香りが、すっと抜ける。
肌が、外の空気を思い出す。
歩き出せば、足は勝手に前へ出る。
ドアノブに触れる手は、昨日より迷わない。

新しい場所では、
誰もが少しだけ他人行儀になります。
椅子に座る姿勢も、
相づちを打つ間も、
どこか探りながらです。
その硬さがほどけるまで、
迷いながらでいい。