COLUMNS

COLUMNS vol.20
呼ばれた名前に、一瞬遅れる

――馴染む前の身体

呼ばれてから、身体が動くまで

新しい場所で、自分の名前が呼ばれる。

一瞬だけ、返事が遅れる。

ここが自分の席だということも、
今日の役割も、頭ではわかっている。

それでも声は、
少しだけ探りながらになる。

借り物の輪郭のまま、動く

新しい肩書き。
決められた席。
すでに用意された役割。

椅子に座る背中が、まだ硬い。
机に置いた手の位置が、落ち着かない。
声を出す前に、喉がわずかに止まる。

行為から戻る輪郭

鏡の中の自分が、少しだけ他人行儀だ。

いつものように、
支度を始める。

掌に落としたオイルを、肌にのせる。
シトラスの香りが、すっと抜ける。

肌が、外の空気を思い出す。

歩き出せば、足は勝手に前へ出る。
ドアノブに触れる手は、昨日より迷わない。

olio narréから、あなた様へ

新しい場所では、
誰もが少しだけ他人行儀になります。

椅子に座る姿勢も、
相づちを打つ間も、
どこか探りながらです。

その硬さがほどけるまで、
迷いながらでいい。



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