COLUMNS

COLUMNS vol.21
決意の消費期限

――3ページ目で止まるインクと、春の自己暗示

新しいノートが並ぶ季節

3月の終わり、文具店のノート売り場は少し混む。

革の表紙の手帳。
罫線の整ったノート。
書き心地のいいペン。

年度の終わりが近づく頃、
文具店の棚には新しい道具が並ぶ。

真新しい紙を開くと、
最初のページには丁寧な文字が並ぶ。

罫線に沿った予定。
少し整えた字。
いつもより真面目な書き方。

ノートの最初のページほど、
文字はきれいになる。

その丁寧さには、
いつも短い期限がある。

書き終えたあと、
ページを少し眺めてから閉じる人もいる。

その几帳面さは、まだ数日続く。

ページは、少しずつ飛びはじめる

やがてノートは毎日開かれなくなる。

最初は数日。
次は一週間。

気づくと、ページは途中で止まっている。

最初のページはきれいなままだ。
後ろのページは、ほとんど白い。

ときどき思い出したように開かれて、
短いメモが一行だけ残ることもある。

春になると、文具店の棚にはまた新しいノートが並ぶ。

書かれていないページが、
ノートの奥にそのまま続いている。

紙ではなく、指先

ノートより、
キーボードに触れている時間の方が長い日もある。

キーボードを打ち続けていると、指先が少し乾く。

紙に触れていなくても、
皮膚は静かに摩擦を受けている。

茶ノ実油を1滴、指先になじませる。

指の腹で広げると、
皮膚が少し落ち着く。

机の上のノートには、
まだ白いページが残っている。

ページは途中で止まっていても、
手は今日も同じように動いている。

olio narréから、あなた様へ

机の上に残った白いページは、
書かれなかった日の記録です。

それでも手は、
今日も同じように動いています。

そのことだけは、
確かに残っています。



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